マットカラーといえば、スマートフォンや自動車の塗装、髪の毛のカラーリングなど、様々な場面で用いられる色味である。しかし、マットカラーとはなにかを訊ねると、答えられる人は少ないかもしれない。
マットの語源
マットは英語では "matte"や"mat" と綴る。「無光沢の」,「つや消しの」という意味である。光沢といえば、物がピカピカしているだとか、くすんでいるだとか、そういう概念だ。これは光がどのように反射するかによって決まってくる。
光沢と光の反射
磨かれたアルミ板のようにつやつやした物質は、光を当てるとその光をきれいに正反射する。そのため、鏡のように光源や景色が写り込んでみえる。
一方で、表面がざらざらしている場合、光のほとんどは凸凹の表面にあたり、様々な方向に拡散する。すると、光源の光は表面でぼやけて、くすんだ色味(光源が白色の場合、白っぽく)にみえるようになる。この状態が、いわゆるマットな質感である1。
高光沢なiPhone背面(左)とマットなiPhone背面(右)。高光沢は背景が映り込むほどだが、マットな背面は濁った白色になっているのがわかる。マットな質感の表現方法
ざらざらの皮膜を作る
艶消しやマット仕上げと呼ばれる塗料も仕組みは同じである。塗装後の表面(塗膜)をざらざらにして、正反射光を減らすことでツヤの軽減を達成している。
塗膜を凹凸にするためには、シリカ粒子や樹脂粒子と呼ばれる10μmほどの細かい粒子を添加する。光沢度や手触りはこの際に使用する粒子の材質や細かさ、密度などにより変化する。ただし、粒子の添加は色の濁りや耐久性の低下につながりやすいという問題も抱えている。
スマホやパソコンの液晶フィルムにも光沢を抑えるアンチグレアと呼ばれるタイプがあるが、これも表面をざらざらにして光の反射を抑えたフィルムである。他にも、陶器のマット釉など表面をざらざらにしてマットな質感をもたらす手法は多く使われている。
光を吸収する顔料を用いる
上述してきた手段はすべて、「光源の光をいかに拡散させて正反射光を減らすか」ということを主眼においている。
一方で、「光源の光を吸収して反射光を減らす」というアプローチでもマットな質感は得られる。
これは例えば古代から利用されてきたボーンブラックであったり、「黒色無双」が該当する。
- 定量的な区別には、JIS規格に定められる「光沢度」などが用いられる。↩