古代から人類に愛された炭と煤の色


人類が初めて利用した顔料は、オーカーヘマタイトのような自然界にあふれる天然鉱石たちだ。オーカーによって描かれた壁画は、古いものでは25万年以上前に描かれたとされている。

では、人類が初めて加工により手に入れた顔料はなんだろうか。それこそが、炭と煤(すす) である。

炭と煤の色

ご存知の通り、大抵のものは燃やすことで黒い炭になる。木材を燃やして作られた炭こそが、人類が初めて手にした人工顔料だ。その色は、「チャコールブラック」や「チャコールグレイ」と広く呼ばれる。

きめ細かく深い味わいのランプブラック

だが、植物を燃やしただけの炭は手軽ではあるが、ざらざらした質感からどこかがさつな印象を受ける。かわって好まれたのが、洗練された色を持つ「ランプブラック」 である。

ランプブラックはその名の通り、樹脂や獣脂、蜜蝋などを燃やすランプの煤を集めて作った顔料だ。炭自体に比べ、格段にきめが細かく、吸い込まれるように鮮やかな黒青色が特徴だ。

神秘的なこの色は、4000年以上昔から古代エジプト人に愛され、墓所の装飾や絵画に使用された。また、ニカワと合わせることで「墨」となり、古代から現代まで広く使われることになる。

骨から作られる白と黒

炭顔料の原料は様々ある。木や植物のつる、ココナツの外皮、そして骨などが代表的だ。ここでは特に、骨を原料としたボーンホワイトボーンブラックについて触れたい。

真っ白なボーンホワイト

動物の骨を灰になるまで燃やしたものがボーンホワイトの原料だ。すり潰すことで、一般的な灰よりも白く、粘度が高い重厚な白色顔料となる。

近年、オフホワイト(色味をともなう白)としての「ボーンホワイト」という言葉があるが、おそらく生骨や象牙などを指した言葉だと思われる。骨を高温できれいに灰化させたボーンホワイトはまさしく白だ。

深い黒味を持つボーンブラック

ボーンブラックもまた、骨を焼く。ボーンホワイトと異なる点は焼く際に空気を取り込むかどうかである。蓋をした窯で酸素を遮断して熱することで骨は炭化して骨炭となる。骨炭の主成分であるリン酸カルシウムが光を吸収する性質を持つため、すり潰すことで植物性の炭よりも深い黒の顔料ができあがる。

一方でリン酸カルシウムはインクの乾燥を遅らせる特徴や、その栄養分の高さからカビの原因となる欠点も持つ。

特に有名なボーンブラックとして、象牙を材料としたアイボリーブラックがある。少し赤みを帯びているのが特徴であり、象牙の希少性から貴重な顔料であった。象牙取引が違法となった昨今では、象牙以外のボーンブラックに科学的に色味を足したものがその名で売られている。

カラー

ボーンブラック (#2E2E2E)
アイボリーブラック (#333132)
ボーンホワイト (#F9F9F9)